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大津地方裁判所 平成7年(わ)364号 判決 1996年3月29日

国籍

韓国

住居

奈良県香芝市穴虫三〇八〇番地の九

遊技場経営

渡辺幸太郎こと金虎遠

一九二七年一月五日生

右の者らに対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官西浦久子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処する。

右罰金刑を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、滋賀県高島郡今津町大字大供九番地の一を納税地とし、同町今津名小路二丁目一番地の七において、「ニューモナコ」の屋号でパチンコ店を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て

第一  平成三年分の実際の総所得金額は一億八四九〇万九四六三円であった(別紙総所得金額計算書及び修正損益計算書1参照)にももかかわらず、事業にかかる実際の所得金額とは関係なく、ことさら過少な所得金額を記載した所得税確定申告書を作成して所得を秘匿した上、平成四年三月一六日、同町今津住吉一丁目五-一〇所在の今津税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額は一一二九万七六二一円で、これに対する所得税額が一九八万三七〇〇円(申告書には誤って一八四万三七〇〇円と記載)である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、平成三年分の正規の所得税額八七七六万一九〇〇円と右申告税額との差額八五七七万八二〇〇円(別紙脱税額計算書1参照)を免れ

第二  平成四年分の実際の総所得金額は一億五五五八万二七五四円であった(別紙総所得金額計算書及び修正損益計算書2参照)にももかかわらず、前同様の手段により所得を秘匿した上、平成五年三月一二日、前記今津税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額は一二三七万三八〇〇円で、これに対する所得税額が二四一万四一〇〇円(申告書には誤って二二七万四一〇〇円と記載)である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、平成四年分の正規の所得税額七三一六万一九〇〇円と右申告税額との差額七〇七四万七八〇〇円(別紙脱税額計算書2参照)を免れ

第三  平成五年分の実際の総所得金額は九五九〇万五六〇九円であった(別紙総所得金額計算書及び修正損益計算書3参照)にももかかわらず、前同様の手段により所得を秘匿した上、平成六年三月九日、前記今津税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額は一一六万七九二三円で、これに対する所得税額が源泉徴収税額を控除すると二四万九五〇〇円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、平成五年分の正規の所得税額四三三七万九〇〇〇円と右申告税額との差額四三六二万八五〇〇円(別紙脱税額計算書3参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目) かっこ内は検察官請求の証拠番号を示す

判示事実全部について

一  被告人の公判供述

一  被告人の検察官調書(乙一一)

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書九通(乙二ないし一〇)

一  渡辺商浩の検察官調書謄本(甲二六)

一  渡辺商浩(一六通 甲一〇ないし二五)及び谷口清(甲二七)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  査察官調査書二四通(甲二八ないし三〇、三五ないし四二、四六ないし五八)

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲八)

判示第一の事実について

一  証明書(甲五)

一  査察官調査書三通(甲三一、四三、五九)

判示第二の事実について

一  証明書(甲六)

一  査察官調査書三通(甲三二、四四、六〇)

判示第三の事実について

一  証明書(甲七)

一  査察官調査書三通(甲三三、四五、六一)

(法令の適用)

罰条 判示第一ないし第三の各罪につき

いずれも所得税法二三八条一項

刑種の選択 いずれも懲役刑と罰金刑の併科を選択

罰金額の選択 いずれも同法二三八条二項

(免れた税額に相当する金額以下とする。)

併合罪の処理 平成七年法第九一号(刑法の一部を改正する法律)

附則二条一項により同法による改正前の刑法四五条前段

懲役刑につき 同法四七条本文、一〇条

(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

罰金刑につき 同法四八条二項

(各罪の罰金額を合算)

労役場留置 罰金刑につき 同法一八条

刑の執行猶予 懲役刑につき 同法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、ほ脱額は合計二億円以上、ほ脱率は各年度とも九五パーセント以上となり、特に平成五年分については、源泉徴収税の還付まで受けていたという脱税事件であり、その事案の内容は、パチンコ店を経営していた被告人が、店の経営が好転してかなりの利益を挙げるに至ったにもかかわらず、適当に過少な売上額を設定して申告を続けていたというものである。

犯行の動機は、北朝鮮に渡った義姉らの救出のため、あるいは事業の将来に備えて資金を用意したかった、というのであるが、いずれも差し迫った必要ではなく、さほど斟酌すべき事情とは思われない。

しかしながら、被告人は、戦後、まさしく裸一貫で事業を起こし、貧苦のために義妹らの北朝鮮渡航を止められなかったなど、辛酸をなめ続けた上で、今日の事業者としての地位を築いたものであって、このような経歴が、金銭に対する執着心を養ったであろうことは否定できず、一抹の同情の余地があること、発覚後は、深く反省し、捜査にも進んで協力していること、借財を背負ってまで既に本税、延滞税、重加算税等を納税していること、今後は税理士の指導を得て正確に納税すべく体制を整えており、被告人自身は遠からず経営から引退する意向であること、その他被告人の年齢、健康状態等被告人に有利な事情を総合すると、自由刑については刑の執行を猶予することを相当と認めた。

その上で本件に現れたすべての事情を考慮の上、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 坪井祐子)

別紙

総所得金額計算書1 公表金額は正当申告額を示す

<省略>

修正損益計算書(事業所得)

<省略>

別紙

総所得金額計算書2

<省略>

修正損益計算書(事業所得)

<省略>

別紙

総所得金額計算書3

<省略>

修正損益計算書(事業所得)

<省略>

別紙 脱税額計算書1 その1

<省略>

<省略>

脱税額計算書1 その2

<省略>

<省略>

別紙 脱税額計算書2 その1

<省略>

<省略>

脱税額計算書2 その2

<省略>

<省略>

別紙 脱税額計算書3 その1

<省略>

<省略>

脱税額計算書3 その2

<省略>

<省略>

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